ビギニングアイドル/Memorial StoryあるいはMake it More, Real Story

今回はネタバレありだよ!注意してね!

 

先週久しぶりにももクロ主演のドラマ「天使とジャンプ」を見ました。13年作品だから国立以前の作品ですね。あたりまえだけど、みんな若いなあ。
そんなわけなので、日曜日に参加したすだPのビギニングアイドル「Memorial Story」ではちょっといろいろ刺さりすぎて、これを書いている今ももう大変な状態です(なにが?)。だってさ、ついこのあいだSOPHISTANCEのアンバサダー就任動画で、ももクロとあかりんの共演を観てきたばっかりなんだよ?そしたらその後ははじクロとサンプラザ大会を観るよね?普通?その状態ですださんのシナリオとプロデュースだよ?しかも、後で説明するけど、あのPL陣のRPですよ。ざっくりやられないわけがないじゃないですか。
 
東京は品川にオフィスを構える芸能プロダクション「マイクロトゥマキシム」。そこに所属するアイドルグループ「2 Why Light(トワイライト)」はデビューしてすでに13年を数えるメジャーグループです。当初5人で始めたグループは初の武道館公演後に1人が脱退し4人になり、以来同じメンバーで苦楽をともにしてきました。そして時は流れ、最年少メンバーが30才になった今年、4人はグループの活動停止を決断します。それはプロデューサーの勧めでもあり。一度は活動停止の決定を受け入れた4人ですが、それを発表するはずのライブの当日リハの場に現れたある人物の一言が、4人の決意をかき乱すことになります。
そんなトワイライトのメンバーと、ぼくたちをとりまく関係者を紹介しちゃいましょう。
 
朱風杏子(18才→31才、オレンジ、せんださん)
せんださんの熱いPC1力が見られる稀有なキャラクター。レアものだよ。
愛媛の片田舎でソフトボール部に所属していた女の子。たまたま試合を見に来ていた野上Pのアンテナに引っかかってスカウトされます。ソフトボールを始めたときはこれを極めてプロになりたい、と思っていたのに、野球はプロがあるけどソフトボールにはない。最後の県大会の決勝で負けた後、やり遂げた後に次の打ち込める対象がアイドルになった彼女です。野上Pの誘いに「アイドルって、プロになれるの?」と尋ねる思い切りというか、最初の一歩を踏み出す勇気を持っている、今作の牽引役。リーダーの資質満載ですよね。
「新しいことに挑戦するのが楽しい、ワクワクする」「失敗するのは怖くない。10回打席に立って、7回失敗してもそれは名打者なんだよ」とメンバーを、特に美奈を勇気づけてくれます。
物事に打ち込むこと、始まりと終わりのあり方を、18才なりに最も理解している杏子は、花咲音の転進にいち早く同意し、受け入れます。それは共感ではなく、理解でもないのですが、それでも杏子は花咲音の理解者であったのでしょう。
歌に、踊りに、演技に。クレバーな杏子はアイドルとして大きく成長します。そして13年の活動を経て、自他ともにリーダーと認められる彼女ですが、失敗の恐怖を知らないのはある意味若さゆえの特権。エンディングでは、常にチームの先頭を走り続けた先駆者の苦悩を垣間見せてくれました。エンディングでの花咲音との会話は、13年の時を越えた種明かし、回答編、でした。
 
花守由香(17才→30才、赤、イサコさん)
こちらは新潟の、やはり片田舎の出身。両親はパチンカスとアル中、高校に上る前に多額の借金を抱え蒸発。貧困とネグレクトに苛まれながら育った彼女は、親戚の援助をかろうじて受けながらも高校進学を諦め、中卒でガソリンスタンドに就職しました。そんな彼女に「アイドルにならないか」と持ちかける野上P。最初は「何いってんのこのおっさん、頭沸いてんの?」と警戒しながらも、「アイドルっつーのはあれか?金になんのか?そうか、だったらやってやんよ」と誘いに応じるハングリーな彼女です。
※ご覧の番組はビギニングアイドルです。ダブルクロスthe3rdは同じチャンネルの火曜日の放送です。
始めたからには全力投球。なにより金と美味いもののため。アタシがテッペンを獲る。アタシの前に立ちはだかるヤツは踏み潰してでも越えてやる。そう気負う由香の前に現れる天才少女、小城花咲音。しかし、終生のライバルと目した彼女はあっさりと、実にあっさりと、アイドルよりも大事なものを見つけ、トワイライトを去っていきます。あとに聳え立つのは、絶対に越えられるはずのない、巨大な天才の影ばかり。
絶対に倒れることのない幻を相手に戦いを挑む由香は、当然のごとく地に倒れ伏し、打ちのめされますが、しかしいつしか理解します。自分は自分でしかなく他人ではない。超克は複製ではないのだ、と。
ライブフェイズでの由香の叫びはまさに魂の叫び、妄執の果てにたどり着いた解放の絶唱だったと感じました。
そしてエンディングの花咲音との和解。ああ、大人になるって、そういうことなんだよなあ、と思わせられた名シーンでした。
 
野崎美和子(17才→30才、桃色、あやめさん)
有名な呉服店の一人娘。幼い頃から両親に愛され、蝶よ花よと育まれた彼女は、優しく素直な、芯の強い女の子に育ちます。なのですが、美和子には常に一つの疑問がつきまといます。
私は野崎呉服店の看板娘。いつもきれいに着飾って、にこにこと笑っているだけのお人形。店を継ぐのは未来の私の旦那さまで私ではない。それなら私の未来は、私の将来はどこにあるの?
私と同じ年頃の女の子が、他人の影に隠れることなく前に出てキラキラと輝いている。そんなアイドルの姿に魅せられ、自らマイクロトゥマキシムの門を叩く美和子の才能と覚悟をやはり野上Pは見抜き、見初めるのです。「いいねえ、実にいい。きみの年頃でそんなことを言える娘はそういないよ」
その言葉がまるで預言であったかの如く、美和子はアイドルとして成長していきます。彼女の芯の強さは自ずと周囲にも伝わります。アイドルを題材にした新作の構想のために、新進気鋭の人気作家から受けたインタビュー。その記事でこう評されます。曰く、「燃え尽きることのないろうそく」
花咲音の脱退に際して、ただただ涙をこぼす美和子の心情は一体どのようなものであったのでしょう。当初よりアイドルへの愛情が強く、花咲音への憧れも人一倍強かった美和子です。おそらくは、アイドルというあり方に対しても、また恋愛ということがらに対しても、自立して主体的に動く花咲音へのリスペクトが美和子にブレーキを掛けたのではないか、と想像します。
そして13年の時を経て目の前に現れた花咲音。飄々とメンバーの前に立つ彼女に掴みかかろうとした美和子の姿は衝撃的でありました。
RP的にもダイス的にも、経験を経て、ライブを経て成長していく美和子の芯の強さは、清々しいものがありました。
ライブ終盤からエンディングでの両親、特に父親との和解シーンは、きっとティーンでは表現できない、30才の大人ならではの深みと落ち着きのある名シーンでした。
 
川添美奈(18才→31才、黄色、よっぴー)
えーっと、種明かしから。今回のコンセプトは冒頭で触れたとおり「天使とジャンプ」です。川添美奈は作中のしおりんの役名そのままね。
高校受験に失敗して望まぬ進学先に滑り込んだ美奈は、登校こそ毎日続けるものの無気力そのものの生活を送っています。そんな彼女を見かねた両親が勧めたのはアイドル事務所への入所。同年代と触れ合って、歌や踊りのレッスンで体を動かせば、きっと何かが変わると思ったのでしょう。
「親に勧められてなんとなく」始めたアイドル業。「うまくいくかな」「失敗しないかな」「そんなことぼくにできるかな」万事に受け身だった美奈ですが、トワイライトに誘ってくれた野上Pの問い「できるかな、じゃないよ。やりたいかやりたくないかだよ」に「ああ、そうですね。ぼく、やってみたいです」と答えます。本当に何気ない、普通の大人と普通の子供のこのやりとりが、美奈のその後の人生を決定づけたのですね。
そうはいっても、なにかにつけて臆病で消極的な美奈はメンバーとの出会いと花咲音との別れを経て徐々に成長します。それは同じ年頃の女の子にとっては小さな一歩でも、美奈にとっては大きな一歩だったのですよ。
姉のように慕っていた花咲音の引退後に、誰の許しも得ずに髪をショートにしたびっくり行動は、美奈なりの成長の表現でした。(いやーこれはしおりんの極楽門の故事を引用したんですけどね。ほんとにももクロはいいチームです)
今回は、いつものおバカな暴走機関車ではなくて、花咲音との別れに号泣し、その後も「できるかな、不安だな」を抱え続けながら、ゆっくりと成長して、幼さを残しながらも年相応の大人になる、そんな人物を演ってみたかったんですが、うまくいったかなー、どうかなー。
 
野上慶(36才→49才、NPC
トワイライトの担当P。トワイライトのメンバーをゼロから集めてチームを結成し、花咲音の脱退を経て、13年に渡ってチームをときに牽引し、ときに伴走してきた名プロデューサー。厳しいのではなく優しいのでもない、でも信頼できる、メンバーにとっては第二のお父さん的人物です。「俺が、お前たちにできない仕事をとってくると思ったのか?」
しかし、長らく現場の最前線で活躍してきた彼は、50歳を目前にふと立ち止まって考えてしまうのです。俺のこれまでの道のりは、果たして正しい道のりであったのか、払った犠牲は払うべき対価であったのか、と。
わかるなー、すげーわかる。まさかビギドルを遊んでいてプロデューサーにここまで感情移入する事態に陥るとは思いもよりませんでしたよ。すださん、中にちっちゃいおじさんとか飼ってませんか?
キーパーソンシーンでは、美奈が「野上さんの望みとトワイライトの望みをどう両立させるか」という視点で悩んだのに対して、美和子が「野上さんの自信を取り戻さないと、解決は得られない」と指摘したときには、正直己の不明を恥じました。
今書いてて気付いたんですが、17才と36才って結構な年の差だけど、30才と49才ってそうでもないですよね。なんかそういうことなのかなーって、ふんわり思っています。これからもトワイライトをよろしくお願いしますね。
 
小城花咲音(18才→31才、NPC
今作最大のトラブルメーカーにして爆弾娘。全てに秀で何でもできる天才少女の花咲音はトワイライトの要であり牽引役でも会ったはずなのですが……事もあろうに、初の武道館進出のその後で、「好きな人ができたから辞める。告白はまだしていない」といけしゃあしゃあと吐かしやがります。杏子の困惑も美和子の動揺も由香の怒りも美奈の涙もどこ吹く風。漢の中の漢。なにそれかわいいんだけど、しかもカッコいい。中の人はそう思いますが、PCはそんな風には思えません。しょうがないよ、だってハイティーンの女の子なんだもん。
好きになった男とめでたく結婚して一児をもうけて、元の職場に運営として復帰する。ライブ開場直前にアンコール曲の歌詞をさらっと書き換え「わたしが繋ぐよ。覚えられるよね」と挑発する。13年ぶりの武道館に、アンコールで登場して会場の度肝を抜く。
もうね、脱帽するしかありませんよ。でもねでもね、ぼくたちだってあのころとはもう違うんだよ。一度差し向かいでじっくり飲んで、いろんな話を聞かせて欲しいな。そうはいってもきみにも悩みとか失敗とか挫折とか、あったんでしょ?
 
さてさて。
今回のシナリオはすごかったです。
オープニングで30才の現在を描いたあと、ドラマフェイズでデビュー当時の17才と、4人体制になった直後の過去パートを演じる。最後のライブフェイズでは、また現在に戻り、各人がそれぞれの未来のあり方を決断する。嗚呼、ビギドルってこんなこともできるんだ。っつーかすださん、こんなのぶっこんできたらもう泣くしかないでしょ。ずるいよ(激賞)。
あとね、すださんは言葉の使い方が抜群にうまい。これはほんとに天才といっても過言ではないです。
ビギドルやってると、ユニット名って結構悩むじゃないですか?そこを「暖色4色のユニットだから明け方や夕方を意味するトワイライト(twilight)」から「2 Why Light」にたどり着くまで、4ステップ、ものの数10秒。過程をじっくり説明したらみんな驚くよ?
それから、シナリオタイトルのMemorial Story。ライブフェイズのアンコール曲でグループの解散を強く暗示する別れの歌。これをちょこっとした歌詞改変で、いろいろあったけど道は続く、次のステップに一歩踏み出す、明るい未来を暗示する曲に変化させる技工。しかもタイトルまで「Make it More, Real Story」(続けて読むと「めもりあるすとーりー」になる)に改変だよ。
今回、歌詞の改変まではかろうじて予想した(それさえも予想を大きく上回ってた)けど、こんなのずるいよ、おかしいよ(語彙力)。
 
今回のセッションで特に印象的だったのは、なんというか、各PCの自分との対峙のあり方、みたいなものだと思います。
杏子が「自分はここにいる。名前のない誰かではなく、朱風杏子だ」と叫び、由香が「超えるべきは小城花咲音。やつを越えたその先にこそアタシのあるべき道がある」と誤り、美和子が「わたしはわたし。野崎の家の添え物ではない。野崎美和子がここにいる」と静かに強く佇む。
美奈はねえ、13年かけてやっと、やりたいことは自分で見つけて作ればいいんだ、と思えるようになったのですかねえ。そんな気がします。
 
すださん、みんな、素晴らしいセッションを、本当にありがとう。みんなのおかげで素晴らしいプレイ体験になりました。
 
追記(あと出し)。
あのキーパーソンシーン直前で「やめるのをやめた」とき。美奈はこんなことを考えてたかもなあって、これを書きながら思いました。
「ねえみんな。
やっぱりぼくは解散したくないよ。これからも、きみたちとトワイライトを続けていきたい。トワイライトがあったから、きみたちがいてくれたから、ぼくは前向きになれたし、いろんな新しいことに向き合ってこられたと思うんだよ。
だけどぼくたちさすがにいい年だから、もうかわいい衣装と元気な歌一本じゃあ、きっとこの先進んでいけないよね。だからさ、これからは、個人の活動も増やしていければいいと思うんだ。
あんこはドラマや映画、それからお芝居。演出家の演技プランをひっくり返せるぐらい、役を読み込めるんだから、きっと大女優になれるよ。
由香は歌って踊るミュージカルとか向いてるんじゃないかと思うんだ。ほら、ソロパートとかも沢山あるから、押しが強くて前に出たがりのきみにはピッタリじゃないかな。曲の間奏であんなに語るアイドルは他にいないって、いつも思ってたんだよ。
美和子はさ、服とかアクセサリーとかメイクアイテムとかのデザインとかどうかな。プライベートブランドとか立ち上げてさ。ちょっとシックで和風だけど、今どきの女の子にざっくり刺さるアイテムとかね、美和子だったらきっといくつでも思いつくでしょ。
ぼくかい?ぼくは、そうだなあ。きみたちが、それぞれの仕事を終えてトワイライトに帰ってきたときの、帰る場所になりたいな。きみたちが外の世界で経験して持ち帰ったいろんなものをさ、ぼくたちのライブでファンのみんなに返すんだ。そう、ライブのセトリを組んだり、演出を考えたり、それから、作詞とかもしてみたいな。できるかな?ああ、いけない。違うよね、やりたいんだ。
ああ、あんこ。新しいことを考えるのは楽しいねえ。ぼくたちみんな、もう30を過ぎたけど、まだまだ、知らない世界がたくさんあるんだ。ねえ、野上さん、これからは花咲音が手伝ってくれるって言ってくれてる。それに、ぼくたちにはまだまだあなたが必要だよ。これからも、ぼくたちと一緒に歩いてもらえませんか?」(別に死なないからね)